
今回は、「放火によって自宅が全焼し、火災保険金を受け取ったけど、犯人に対しても損害賠償請求は可能なのか?」をテーマに解説させて頂きます。
損害賠償請求権は、損害保険会社に一部、又は全部が帰属することになるので、放火犯に対する損害賠償金の請求については、損害保険会社との調整が必要になります。
その理由を今から解説させて頂きます。
解説
保険法の25条によれば、「保険者は、保険給付の額・被保険者債権の額のどちらか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じることによって保険者が取得する債権について、当然に被保険者に代位すること」になります。
ここでいう「保険給付の額」とは、損害保険金のことを指します。
「被保険者債権の額」というのは、今回のテーマでいえば、被保険者が放火犯に対して有している民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求権の数額(損害発生数とそれぞれの金額)のことです。
なお、被保険者債権は、不法行為に限らず、放火犯が賃貸物件の貸借人である場合等、民法415条の債務不履行(目的物返還義務の履行不能)に基づく損害賠償請求権も含まれます。
請求権代位の趣旨は、おおよそ次の様に理解しておけば十分です。
すなわち、損害保険の支払い後も被保険者に第三者(今回のテーマでは放火犯)に対して損害賠償請求を認めることは、利得禁止原則に反するので、被保険者債権は被保険者から剥奪する必要があります。
※保険会社から保険金をもらったのに、さらに犯人からも賠償金を得て、実損害以上の利益を得てはいけない決まりだからです。
しかし、放火犯のような第三者を免責にするのは正義に反するので、誰かしらに被保険者債権を帰属させて請求権を行使させるべきというタテマエが必要になります。
そこで、損害保険金を支払った保険者に被保険者債権を帰属させることで、「利得禁止」&「第三者(犯人)の免責防止」を図ると共に、被保険者債権を回収させて、「保険料の低廉化(価格が安くなっていくこと)を図る」という趣旨の下で設計された制度が請求権代位なのです。
なお、過去の判例も火災保険金が損益相殺(二重取りを防ぐ)の対象となるかが争点になった事案においては、以下の様な裁判官による判示があります。
「家屋焼失による損害につき、火災保険契約に基づいて被保険者たる家屋所有者に給付される保険金は、既に払い込んだ保険料の対価たる性質を有し、たまたまその損害について第三者が所有者に対し不法行為、又は債務不履行に基づく損害賠償義務を負う場合においても、右損害賠償額の算定に際し、いわゆる損益相殺として控除されるべき利益にはあたらないと解釈するのが相当である。
ただ、保険金を支払った保険者は、旧商法662条所定の保険者の代位の制度により、その支払った保険金の限度において被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権を被保険者から取得する結果、被保険者たる所有者は、保険者から支払いを受けた保険金の限度で第三者に対する損害賠償請求権を失い、その第三者に対して請求することのできる賠償額が、支払われた保険金の額だけ減少することとなるに過ぎない。
また、保険金が支払われるまでに所有者が第三者から損害の賠償を受けた場合に、保険者が支払うべき保険金を、これに応じて減額することができるのは、保険者の支払う保険金は被保険者が現実に被った損害の範囲内に限られるという損害保険特有の原則に基づく結果にほかならない。」
上記の様な判例がありますが、実務上、請求権代位は保険代位とも呼ばれます。
これは、残存物代位がほとんど行われないために、保険代位といえば、請求権代位を指すためです。
~※保険代位については下記も参考にしてください~
請求権代位(保険代位)について
請求権代位は、保険法25条のとおり、保険給付の額(損害保険金)・被保険者債権の額のどちらか少ない額を限度として行うことができます。
ただし、保険給付の額が、てん補損害額より少ない時は、被保険者債権の額から不足額を引いた、残りの額が被保険者債権の額になります。
てん補損害額は、保険価額によって算定するので(保険法18条1項)、損害発生時の時価又は約定保険価額となります。(保険法18条2項)
火災保険では、時価保険の場合は「建物の時価」、新価保険の場合は「再調達価額」で算定します。
損害保険金が、てん補損害額より少ない場合は、
まとめ
今回のテーマでは、「保険会社から保険金を受け取ったけど、犯人に対しても損害賠償ができるのかどうか?」でした。
この結論は、損害保険会社から実損分の保険金を支払ってもらった後で、犯人に対してさらに賠償請求したい場合は、保険会社がその債権を引き取り(請求権代位)、保険会社が犯人に対して一定の損害賠償を請求することになります。