火災発生の偶然性についての【立証責任】

火災事故が起きたときに、その火災が発生した偶然性についての立証責任は、被保険者側にあるのか?あるいは保険会社側にあるのか?をテーマに、実際にあった裁判事例をご紹介しながら解説させて頂きます。

実例を紹介

今回ご紹介する裁判の実例は、保険契約締結後、1ヶ月以内に火災が発生してしまい、その保険金を請求したら保険会社側が「偶然の発火という事を契約者側が立証せよ」という立場をとり、最高裁まで争われた実例です。

原告の保険契約者側の陳述書を参考にしながら、裁判が提起されるまでのいきさつを、原告側の文章を基にまずはご紹介します。

私は、自己所有地上に店舗兼住宅用ビルを所有し、ビルを自宅・店舗・倉庫等として使用していた。

そして私は、保険会社との間で、以下の3つの条件で店舗総合保険契約を締結した。

  1. 保険の目的を本件建物、家財一式及び商品・製品等一式
  2. 保険金額を建物2億円、家財一式7000万円、商品・製品等一式2億円
  3. 保険金1年間とする店舗総合保険契約

上記の契約を締結し、保険料も支払っていた。

保険契約締結後、1ヶ月も経たないうちに、本件建物内で火災が発生し、保険建物4階の居室20㎡を焼損し、他の階の居室にも消火活動による水損等の被害が生じたほか、建物内に保管されていた家財、商品などの一部にも焼損又は水損の被害が発生した。

私が保険会社に火災保険金の支払い請求をしたところ、保険会社が支払を拒否したので、私はやむを得ず、保険金支払請求訴訟を提起した。

保険会社は訴訟において、本件火災発生が偶然のものであることについて、私が主張・立証すべきであると主張している。

上記の場合、火災発生の偶然性についての立証責任は、どちらが負う必要があるのでしょうか?

なお、本件保険契約に適用される店舗総合保険普通保険約款には、「保険金を支払う場合」として、「火災によって保険の目的について生じた損害に対して損害保険金を支払うこと、保険契約者等の故意又は重大な過失等によって生じた損害については保険金を支払わないこと」が規定されていました。

詳細の解説

1.問題の所在

保険金請求訴訟においては、保険金請求者が、請求原因として、①保険契約の成立、②保険期間中の保険事故の発生、③損害の発生及びその額を主張・立証し、保険会社が、抗弁として免責事由を主張・立証する流れになります。

しかし、実務上は②の保険事故について、請求者がいかなる事実を主張・立証しなければいけないのか、保険契約に適用される約款の解釈とも関係して問題となります。

2.学説

保険契約一般にいう事故の「偶然性」とは、保険事故の発生と不発生とが保険契約の成立時に確定していないこと、を意味するのであり、保険事故の発生が保険契約者等の意思に基づかないことを意味するものではないとするのが通説的見解となっています。

一方で、このような通説に対しては、旧商法629条は損害保険契約の成立要件だけでなく、損害保険請求権の成立要件も規定しているとして、「偶然性」とは「保険事故の発生が保険契約者の意思に基づかないことをも意味する」との反対説も展開されています。

3.判例の紹介

この事案の判例は、以下の様に判示されました。

「商法(旧商法)は、火災によって生じた損害は、その火災の原因を問わず保険者がてん補する責任を負い、保険契約者又は被保険者の悪意又は重大な過失によって生じた損害は、保険者がてん補責任を負わない旨を定めていて(旧商法665条・641条)、火災発生の偶然性いかんを問わず、火災の発生によって損害が生じたことを火災保険請求権の成立要件とするとともに、保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって損害が生じたことを免責事由としたものと解釈される。

火災保険契約は、火災によって被保険者の被る損害が甚大なものとなり、時に生活の基盤すら失われることがあるため、速やかに損害がてん補される必要があることから締結されたものである。

さらに、一般に、火災によって保険の目的とされた財産を失った被保険者が、火災の原因を証明することは困難でもある。

商法(旧商法)は、これらの点に鑑みて、保険金の請求者(被保険者)が火災の発生によって損害を被ったことさえ立証すれば、火災発生が偶然のものであることを立証しなくても、保険金の支払を受けられることとする趣旨のものと解釈される。

この様な方の趣旨及び・・・本件約款の規定に照らせば、本件約款は、火災の発生により損害が生じたことを火災保険金請求権の成立要件とし、同損害が保険契約者、被保険者又はこれらの者の法定代理人の故意又は重大な過失によるものであることを免責事由としたものと解釈するのが相当である」

※この裁判事案の記録が「最高裁判例集」から閲覧できます。

上記の判例の意味は、「偶然性」の解釈について、約款の文言の構造(旧商法661条や641条)ばかりではなく、火災保険契約の本質についても論じたうえで、通説的見解を採用することを採用すると明示したものといえます。

この点については、傷害保険について「偶然性」の立証責任は保険金請求者が偶発的な事故であることについて主張・立証すべき責任を負うものと判示した平成13年の別の最高裁判例の結論と異なっています。

しかし、傷害保険についてはそもそも「偶然性」が保険事故の要件の一つとして規定されていて、その主張・立証責任の所在が問題となるのに対し、火災保険では「火災の発生」自体が保険事故であるので、平成13年の最高裁判例の解釈と違うのは不自然ではないのです。

この裁判では、結果的に火災保険金が支払われる事になりました。

まとめ

火災保険においては、契約の本質に鑑みれば、上記のような通説や判例の立場が妥当だと思います。

保険金請求者は、火災の発生によって損害を被ったこと自体を主張・立証すれば十分であり、火災の発生が偶発的なものであることまで主張・立証する必要はありません。

※放火による保険金の支払拒否の裁判例に関しては、「【保険金請求が棄却された】実際の裁判例をご紹介します」をご覧下さい。

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