保険法に規定のある免責

今回は、福岡高裁で平成19年に出された判決を題材にして、保険金の請求を保険会社が拒否し、実際に裁判になった例をご紹介したいと思います。

今回ご紹介する裁判では、火災が発生したのは保険契約した側の人たちが放火の可能性を認めた形になり、裁判では保険金請求が棄却された実例です。

保険金請求までのいきさつ

まずは、保険金請求までのいきさつを実際の裁判記録を参考にしながら、物語形式でご紹介します。

以下に紹介するのは、父親の自宅が火災にあった後、父が亡くなってしまったので、息子が保険金請求訴訟を提起したいきさつを、息子自ら書いたとされる裁判記録の文章を最初にご紹介します。

私の亡くなった父親Aは、自己所有地上に自宅を建築し、保険会社との間で、建物及び家財一式に関する住宅総合保険(火災保険)契約を締結していた。

Aが外出中に自宅が全焼してしまい、その後の警察による調査等の結果、火元は1回の仏壇付近と押し入れの中の2カ所であり、焼残物から灯油に含まれる成分とガソリンに含まれる成分が検出された。

Aは、自宅の戸締まりは自分で毎日していたものの、自宅の鍵は普段から掛けてはいなかった。

一方、今回の火災の際に物取り等の第三者が自宅に侵入し、わざわざ灯油を撒いて放火したような形跡は見つからなかった。

もっとも、Aの前妻B(母)は、Aに対して深い恨みを抱いており、婚姻中から自宅より様々な品物を持ち出していたことから、今回も自宅に侵入し、放火した可能性はあると私は考えている。なお、Bは、Aがかつて放火をして保険金を貰う旨の話をしていたことがあり、実際に自宅で自分や友人のいる前で、大量のティッシュペーパーとマッチを入れた段ボール箱に火を付けたことがあった等と話している。

Aは火災当時、居酒屋を経営していたが、全く売上げが上がらない状態にあり、地元の信用金庫や友人から借り入れを重ねていたほか、国民年金の掛金の支払も滞納する状態となっており、息子である私からも借り入れをし、施設入所中の母親の年金まで消費する状態にあった。

また、Aは住民票上の住所を自宅ではなく、居酒屋の所在地としており、火災当時も居酒屋に寝泊まりしていた。

自宅はかなり老朽化しており、固定資産評価額は約4万円、消防署による評価額も約300万円であったのに対し、本件火災保険契約における保険金額は約1000万円であった。

そしてAは、保険契約を締結する際、建物の評価額に200万円を加えた保険金額とするように要求し、その際、保険料が高くてもかまわないので、保険金額をできるだけ高くしてほしいと話していたが、保険料の支払いも滞りがちだった。

Aは、火災当時、自分が経営する居酒屋付近で飲酒し、別の食堂に行ったところ、自宅で火災が発生したことを知らされたが、現場には行かず、知人に依頼して状況を確認してもらおうともしなかった。

その後、Aが亡くなり、息子である私が保険会社に火災保険金の支払いを請求したところ、保険会社が支払を拒否したので、私はやむを得ず、保険金支払請求訴訟を提起した。

この裁判は、父親が本来保険金を請求する事案ですが、父親が亡くなってしまったので、その後に息子が保険会社に保険金を請求したようです。

しかし、保険会社は放火の可能性を疑い、支払拒否の返答だったので、裁判になってしまった事案です。

第一審の裁判の解説

本件は、亡くなったAが東京海上日動火災保険との間で締結した建物及び家財一式に関する住宅総合保険(火災保険)につき、建物等が火災により全焼したとして、Aの相続人である息子(今後はCと表記する)らが、東京海上日動火災保険に対して火災保険金の支払いを求めた事案であり、火災がAの故意重過失によって起こされたものか(放火性とAの関与)が争点になりました。

原審(第一審)は、建物の出火場所が複数であり、それぞれが独立したものである等、出火原因が人為的な放火である事が推認されるとしたうえで、Aの関与については、以下の5点によって、放火にAが関与していたとまでは推認できないとして、C(息子)らの保険金の支払い請求を一部認められました。

第一審が説示した5つのポイント

  1. Aと無関係の第三者が放火したとは考えられないとして、その元妻が関与した可能性を示唆しつつ、Aがかつて放火して保険金をもらう旨の発言をした等との元妻の発言は、内容が奇異(不思議過ぎる)であること
  2. Aは火災発生を知った後も自宅に戻らなかったが、当時飲酒していたことなどからすれば、Aが放火に関与していたことを推認させるものとはいえないこと
  3. 保険調査員に対するAの経済状態に関する説明には誇張されたものがあるが、面談時飲酒しており、見栄を張っただけということもできること
  4. 火災当時、空港に知人を見送りに行ったことに関する当日のAら関係者の説明に食い違いがあっても特に不自然ではなく、むしろ細部が食い違うのは口裏合わせをしていないことの証左(根拠)ともいえること
  5. Aの経済状態は芳しくなかったが、保険金詐欺を働くほどのものとはいえず、建物には思い出の品が多数あったと思われるところ、Aがこれを搬出した形跡はないこと

第二審(福岡高裁)の判決

第一審では、保険金支払が認められたのですが、控訴審の判決は、火災原因を放火とする第一審認定を踏襲しつつも、これがAあるいはAと意を通じた者によって行われたものと認められ、契約約款の免責事由に該当するものといえるとして、一審判決を取り消して、C(息子)らの請求を全て棄却しました。

要するに、Aの関与について間接事実を検討し、以下の5つを説示して、放火へのAの関与を推認したのです。

福岡高裁が説示した5つのポイント

  1. Aの元妻は放火する理由がなく証言に信用性が認められること
  2. Aが火災発生を知った後の行動は、飲酒していたことでは到底説明できないほど不自然であること
  3. Aの調査員に対する発言は、説明内容に変遷があり、単に見栄を張った結果とは言い難いこと
  4. 火災当日に空港にいったとのAら関係者の説明は、細部について多くの点で齟齬(食い違い)があり、単に記憶違いとして説明がつく限度を超えていること
  5. 火災によって利益を得るのはA一人であるうえ、Aは経済的にも困窮しており、放火する十分な動機を有していたこと

まとめ

多くの判例は、間接事実の積み重ねによって、被保険者などの関与した放火であることを推認するという手法で被保険者等の放火と認定しています。

しかし、本件の素材となった判例のように、控訴審と第一審で結論が逆になる事案も、相当数存在しているようで、事実認定については、担当する裁判官の価値観などによって、かなり判決に幅が出てしまう事が現実のようです。

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