
住宅総合保険契約の対象になっていた自宅が火災によって半焼した後、不運な事に地震が発生して自宅が倒壊してしまった場合、事前に【地震保険特約】を付保してないと保険金が貰えないのかどうか?等のテーマを中心に解説させて頂きます。
また、それに関連して、可能性として有り得るケースも解説しています。
3つの場面を想定した解説
今回は以下の3つの複合するケーススタディについて解説してみたいと思います。
- 損害発生後の保険目的物の消滅(保険法15条)
- 火災の際における保険目的物の紛失、又は盗難による損害はどうなるのか?
- 原因が競合する場合における損害てん補の考え方
1.損害発生後の保険目的物の消滅
例えば「住宅総合保険契約の対象としていた家屋が火災によって半焼し、その直後に地震が発生して完全に倒壊してしまった。」
この様なケースでは、地震保険特約を付帯していないと保険金を請求する事ができないのかどうか?が問題です。
法的な根拠を基に答えるとすれば、「火災による損害(半焼)の部分についてのみ保険金を請求できる」となっています。
2.火災の際における保険目的物の紛失、又は盗難による損害はどうなるのか?
次に、「火災が起きた時に、ドサクサに紛れて誰かが保険の目的物を盗難したり、紛失してしまった場合はどうなるのか?」です。
この様なケースは、多くの損害保険会社の約款で「火災の際に保険目的物が紛失又は盗難によって生じた損害について免責される」と規定されています。
つまり、基本的に保険金請求はできないです。
3.原因が競合する場合における損害てん補の考え方
上記の1.の様に、火災で半焼した後に地震が発生して、結果的に延焼が拡大して全焼になってしまった場合、全焼損害として火災保険金を請求出来るかどうか?という問題があります。
この答えは、火災保険の免責事項の解釈から、「地震後の延焼・拡大による損害補償は免責となっている」のです。
それでは上記の3つの内容をふまえて、下記でより詳しく解説させて頂きます。
解説
1.因果関係
損害保険で損害がてん補されるためには、当該損害は保険事故によって生じたものでなければならない(保険法2条6号)となっています。
要するに、保険事故と損害との間に因果関係が必要になるわけです。
因果関係の範囲については様々な学説が展開されています。
通説的な見解は、ある結果に対して、ある事実が原因として認められるためには、当該事例においてのみではなく、一般的な場合においても、その事実が同じ結果を生じさせると判断される場合に、両方の事実の間に因果関係が認められると考えられています。
これを、相当因果関係説と呼びます。
過去の裁判の判例でもこの「相当因果関係説」がベースになっています。
2.損害発生後の保険目的物の消滅(保険法15条)
保険者の損害てん補義務は、保険事故によって保険の目的物に損害が発生した事によって生じます。
したがって、保険者がてん補すべき損害が発生した後に、保険者が責任を負わない事故によって保険の目的物が減失した場合であっても、保険者が当該損害のてん補義務を一部負っているのは当然の考え方です。
このてん補義務は、保険事故の発生によって保険目的物に損害が生じたことにより既に確定しているからです。
つまり、今回のケーススタディ1.の場合、火災による損害の部分については当然ですが、てん補義務を負っています。
3.損害てん補の特則(保険法16条)
火災保険契約において、保険の目的物に保険事故といえる火災が発生していない時であっても、消火、避難、その他の消防活動のために必要な処置によって当該目的物に損害が生じた場合には、保険者はその損害をてん補しなければいけません。(保険法16条に書いてあります)
損害保険会社の約款にも、同様の規定を設けている会社が殆どです。
例えば近所で火災が発生し、その消火活動の一環として延焼を防止すべく、未だ燃えていない自宅にも放水した結果、損害が生じることが希にありますが、放水による間接的な損害は、火災によって直接生じた損害ではなく、また損害防止費用のように別に支出がされるものでもないことから、さらなる被害拡大防止の観点から、当該損害についても保険者がてん補するものとされています。
「消火、避難、その他の消防活動の為に必要な処置」には、消防行為としての保険目的物への放水、延焼を防止するための保険目的物の破壊、保険目的物に相当する家財の搬出行為に加えて、人命救助のための保険目的物の破壊も含まれると考えられています。
しかし、「必要な処置」と認められるためには、その処置が講じられた時点において、それが客観的に必要であると認められるものでなければいけません。
そして、当該行為者は、必ずしも消防職員でなくてもよく、また保険契約者や被保険者でなくても良いとされています。
4.火災の際における保健目的物の紛失または盗難による損害
この件に関しては、保険会社の約款によって、火災の際に保険目的物が紛失や盗難によって生じた損害については免責されるとの規定を設けている場合が殆どです。
火災時における保険目的物の紛失又は盗難による損害は、火災と相当因果関係がある場合と、そうでない場合があり、その因果関係の有無は一律には判断できないし、なおかつ、その立証することも難しいので、この様な規定が設けられているのです。
5.原因が競合する場合における損害てん補
保険事故と免責事由が、それぞれの損害を発生させ、それぞれの損害が独立していれば、保険者は保険事故によると認められる損害の部分だけをてん補すればよい事になっています。
過去の判例を調べてみた結果、地震による火災の延焼・拡大が問題となった事案について、火災保険の免責条項の解釈から、保険者に対して延焼・拡大した部分のみについて免責を認める部分的てん補責任を認めた判例があります。
結論
話が長くなってしまいましたが、今回の結論を申し上げるとすれば以下の様になります。
- 火災が発生して家が半焼して、その後に地震が発生した事によって延焼し、結果的に家が全焼してしまっても、火災保険の範囲は「半焼した部分のみ」がてん補される
- 保険の目的物が、火災によって紛失したり、盗難の被害にあった場合は、保険会社は責任を負わなくても良い
- 近所で火災が発生し、自宅に延焼の可能性が高くなったときに、事前にそれを防ぐ為に自宅に放水したりして「必要な処置」によって損害が出てしまった場合でも、損害がてん補される場合もある
- 損害の原因が競合する場合は、保険会社は一括にまとめないで、それぞれの被害部分を分けて対処する