抵当権が設定されている自宅

自宅を新築する人は、多くの場合銀行から融資を受けていると思います。その場合は融資の担保として、その自宅に抵当権が設定されることがあります。

この様な場合、銀行のために住宅総合保険契約(火災保険契約)を利用することができるのかどうか?をテーマに解説させて頂きます。

先に結論からいえば、抵当権設定者が保険契約を締結し、当該契約に抵当権者特約条項を付帯する方式が考えられます。

また、抵当権者(銀行等)自身が保険契約を締結することも考えられます。(債権保全火災保険)

①:債権保全の方法

銀行は住宅ローンを設定する際に、債権保全を考えなければいけません。

通常は、所有権付きの土地建物であれば、土地建物双方に抵当権を設定しますが、建物が焼損した場合の債権保全が問題となります。

典型的な債権保全の方法は、火災保険に対する質権設定です。

通常の質権設定は、損害保険会社に対して、契約者、被保険者及び質権者の署名・押印のある「保険金請求権 質権設定承認請求書」又は「保険金請求権 返還保険料請求権 質権設定承認請求書」を差し入れて、損害保険会社が保険証券の原本を金融機関に交付することで行われます。

※契約者・被保険者には保険証券の写しが交付されます。

しかし近年では、質権設定がなされることは以下の理由などで少なくなってきています。

  • 火災保険の保険期間が今までの最長35年から最長10までになったこと
  • 保険証券の保管などの管理コストが掛かること
  • 住宅ローン残高の維持にメリットがあること

質権設定が少なくなってきた一方で、火災保険金に対する物上代位が注目されてきています。

物上代位とは

物上代位とは、目的物が売られたり、貸されたり、滅失したりして目的が果たせない場合に、代わりの価値のあるものが目的物となることを言います

まず建物の抵当権者は、建物に付保された火災保険契約に基づく保険金請求権に対して物上代位することが民法上可能になっています。

この点で問題となるのは、物上代位の要件としての「差押え(民法304条1項のただし書き)」の趣旨になります。

抵当権の差押えと一般債権者の転付命令債務者の預金などを債権者へ直接的に移すのと同じ効果を生じる手続きのこと。債務者の財産に対する強制執行の一つ)が競合した事案において、判例では以下の2つが過去に出ています。

  1. 金銭払渡前に抵当権者自身が差押えを行わなければならない
  2. 抵当権者が差押えをする前に債権者が差押えをして転付命令を受けた場合は、その送達によって差押債権者の債権は弁済されたものとみなされるので、転付命令が物上代位に優先する

上記の様な判例が出ています。

また、債権譲渡と物上代位の優劣については、火災保険についての最高裁判例はありませんが、賃料債権の債権譲渡と物上代位の優劣が問題となった事案においての判例では、債権譲渡は民法304条但し書き書の「払渡し又は引き渡し」にあたらないとしたうえで、抵当権設定登記と債権譲渡の対抗要件具備の対抗問題として処理しています。

※対抗要件具備とは、第三者に対し事実または法律関係の存在を主張しうる効力のことをいう

この判例は、おそらく火災保険金の物上代位にも該当するので、ほぼ全ての事案で債権譲渡に物上代位が優先する事になると解釈するのが一般的です。

また、質権と物上代位の優劣については、判例は、民法304条1項但し書きの「払渡し又は引き渡し」には質権設定も含むと解釈し、質権設定の対抗要件具備と物上代位の差押えの先後で優劣を決める旨が示されています。

話が難しくなってしまいましたが、整理をすると、火災保険金に対して物上代位を行う為には以下の様な債権保全のルールになっています。

  1. 火災保険金が被保険者に支払われる前に差押えをしなければならない
  2. 火災保険金の転付命令の送達前に差し押さえなければならない
  3. 質権譲渡・質権設定との優劣は抵当権設定登記と債権譲渡・質権設定の対抗要件具備の先後で決する

②:抵当権設定者による火災保険の締結

上記①に記載した方法よりも簡単な債権保全方法としては、債務者が自宅についえ締結する火災保険契約に抵当権者特約条項を付帯する方式が考えられます。

当該特約条項では、被保険者が保険金請求権を抵当権の被担保債権額を限度に譲渡担保として抵当権者に譲渡することになっています。

当該特約条項には、一般的に以下の様な規定があります。

  1. 保険契約者又は被保険者に通知義務違反があっても、抵当権者に対しては保険金が支払われる
  2. 抵当権者は通知義務の対象事実を知った場合は、自ら通知義務を負う
  3. 危険増加等に係る追加保険料を保険契約者が支払わない場合でも、抵当権者がこれを支払えば保険者免責にはならない
  4. 保険者が契約解除権を行使したり、保険契約者と合意解除する場合には抵当権者に対して少なくとも10日前の予告を行う必要がある

③:抵当権者自身による火災保険契約の締結

抵当権者自身を被保険者とする債権保全火災保険を締結する方式も選択しとして考えられます。

債権保全火災保険とは、抵当権付債権を被保険利益とする特殊な火災保険です。

当該保険では、抵当物の損害があれば債権の損失があり、抵当物の損害割合を債権の損失割合であるとみなしています。

また、保険金の受領と引換えにに、債権者は保険金と同額の債権を保険者に譲渡しなければならないとし、利得の防止が図られています。

ただし、「保険目的粒の分損の場合には十分な保険金が得られない」、「優先あるいは同順位の外の目的物がある場合には、支払保険金からかかる権利の額が控除あるいは按分される」等の問題点も存在しているのが課題といえます。

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