全焼後の材木の再利用

火事によって自宅が全焼してしまったけど、まだ使えそうな材木がある場合は、被保険者が再利用できるのかどうか?をテーマに解説させて頂きます。

原則論として申し上げると、「残骸の所有権自体は、被保険者(自宅の持ち主)に残っているので、まだ使えそうな材木などが存在している場合は、再利用できる」と思ってもらっても良いです。

あくまで所有権は被保険者(保険契約者)に帰属しますので、このあたりを下記で詳しく解説します。

解説

例えば保険の目的物に保険事故が発生し、保険者が被保険者に対して損害保険金を支払ったとします。

利得禁止原則の観点からは、被保険者の損害と損害保険金は一致すべきですが、事案によっては、損傷した保険の目的物に価値のあることがあり、あるいは保険事故によって被保険者が第三者に対して損害賠償請求権を取得することがあります。

こうした価値のある物、又は損害賠償請求権を被保険者の手元に残すとなると、被保険者は損害保険金にプラスして利得を得ることになり、利得禁止原則の観点から不都合になります。

そこで、保険法では、「保険代位」という制度を定めて、被保険者の利得を剥奪して、保険者に一部の権利を移転させることを定めているのです。

保険代位には、①残存物代位②請求権代位があり、価値ある物の権利を保険者に移転するのが「残存物代位」で、請求権を移転するのが「請求権代位」です。

今回のテーマである、「全焼後の残存物に、まだ一定の価値があると判断されるもの」は、残存物代位の問題の範疇になります。

保険法の24条は、以下の様に残存物代位について規定しています。

保険者は、保険の目的物の全部が滅失した場合において、保険給付を行ったときは、当該保険給付の額の保険価額(約定保険価額があるときは、当該約定保険価額)に対する割合に応じて、当該保険の目的物に関して被保険者が有する所有権その他の物権について、当然に被保険者に代位(物権を保険会社側が取得)する

もっとも、火災保険の場合は、保険者が残存物の所有権を取得する旨の意思表示を行わない限りは、当該所有権は保険者に移転しないと約款に定められています。

例えば損害保険料率算出機構の普通保険標準約款には、「当会社が損害保険金を支払った場合でも、保険の対象の残存物について、被保険者が属する所有権その他の物権は、当会社がこれを取得する旨の意思を表示しないかぎり、当会社に移転しません。」と書いてあります。

この意味は、例えば火災保険の保険の対象の戸建てが全焼し、いくらかの建材が残ったとして、上記の保険法24条によれば、保険者はこうした建材の所有権について当然に保険会社側が代位することになりますが、多くの事案では、当該建材に価値はなく、むしろ運搬・片付け費用の分だけマイナスになる。

そのため、保険法24条を適用してしまうと、保険者は損害保険金を支払うだけでなく、残骸の建材を片付ける費用まで支出することになります。

これに対し、被保険者は、損害保険金を受け取ったうえに、保険者の費用で残骸の片付けまでしてもらえることになるので、結果として利得を得ることになります。

この様な趣旨から、約款上、残存物代位の放棄規定が存在しているのですが、一方で、保険法24条は片面的強行規定とされています。(保険法26条)

そのため、上記の約款が被保険者に不利な特約に当たるのかが問題となります。

この点、不利な特約にあたるかどうかは、代位の範囲が保険法の代位の範囲より広いかどうかが基準となると解釈されています。

そう考えた場合、約款上の代位の範囲は、保険法24条と同じ範囲と考えられるので、不利な特約には当たらないことになります。

そもそも保険法24条は、利得禁止原則の観点から定められたものです。

したがって、残存物代位によって被保険者にかえって利得が生じるのであれば、保険者に残存物代位の当否の判断を委ねることは許されるわけで、その一方で残存物代位が認められないことによって生じる被保険者の不利益は、「利得を得られないという不利益」だけで、利得禁止原則の観点から保護に値しないと考える事ができます。

なお、上記約款の結果、保険者が残存物代位を行使することは事実上なくなりますが、これでは被保険者が片付け費用の負担に困ってしまうので、火災総合保険では、残存物取片づけ費用保険金を自動付帯して、損害保険金の10%を限度として片付け費用の実費相当額が支払われる事になっています。

まとめ

今回のタイトルのテーマに戻ると、「よほどの銘木でない限り、損害保険会社が残存物代位の意思表示を行うことはないから、一応、損害保険会社に確認したうえで、再利用することは何も問題ない」という結論になります。

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