通知義務違反で支払拒否

火災保険(住宅総合保険)を契約していても、保険会社に通知すべき事に虚偽があったり、通知義務のある事を通知しなかった場合、火災保険金が支払われない事があります。

今回は、ある事例をご紹介し、保険契約者が被害額を過大に申告した場合にどのような結果になるのかをご紹介します。

事例の紹介

まずは、今回の事例のあらすじを下記に記載します。

私(A)は平成10年頃から衣料品の製造・販売業を主な事業とするX社を経営し、私の母親所有の建物を事務所兼作業所として使用していた。

そして保険会社(Y社)との間で、本件建物及び建物内に保険されている商品を保険の目的として、火災保険契約を締結した。

その後、平成11年2月4日、本件建物において火災が発生し、建物の一部及び建物内の商品も一部消失した。

本件建物内で発見された残燃物の大半に「不良返品票」というシールが貼られていたが、私は商品の仕入れ価格を基準として損害額を算定し、Y社に対し保険金を請求した。

しかし、Y社がこれを拒否したため、やむを得ず訴訟提起した。

訴訟においては、Y社は以下の3点を主張した。

  1. 本件火災がAの故意又は重過失に基づくこと
  2. 本件建物に保管されている商品は不良品であり、損害額についてX社が不実告知(損害額を過大に申告)をしていること
  3. 本件建物保管の商品は無価値の不良品であり、X社に損害は発生していない

※裁判所は、その後の審理でY社の上記1.の主張については認定している

Y社の上記2と3の主張は認められるのか。

なお、本件火災保険契約の約款には、以下の様な規定が明記されていた。

  • 事故が発生したことを知った場合は、事故発生の日時、場所及び事故の概要などを、直ちに保険会社に通知しなければならないこと
  • 通知義務違反につき、故意・重過失がある場合には、保険会社は契約を解除できること
  • 通知すべき事項について、不実の表示をした場合には、保険金支払を免責されること

上記の事例をもとに考える場合、基本的な考え方としては、「保険契約したX社に保険金を詐取する意図や、過大に保険金を取得する意図などがあった場合には、保険会社は支払を免責される」のが一般的な考え方です。

仮に保険会社が支払を免責されない場合でも、焼損物の状況などの客観的証拠から、保険支払額の減額を主張することは可能です。

事例の解説

1.問題の所在

火災保険契約には様々な種類があり、それぞれにおいて普通保険約款が規定され、保険契約者等が正当な理由なく事故通知義務などに違反した場合には、保険金を支払わないという免責事由が規定されています。

そこで、今回の事例のように、損害額等について保険会社側が保険契約者側の過大申告と判断していた場合、保険金の支払いを拒否する場合があります。

もっとも、保険契約者が火災による損害額などについて申告する時には、火災にともない、保険の対象としていた財産などの資料も焼失していることもあったりするので、損害の申告を正確に行うことが不可能になるだけでなく、「単に多少の過大申告の可能性がある」という理由だけで保険金支払を拒否されたとしたら、保険契約者等の救済が出来ない結果になってしまいます。

そこで保険会社は、「どんな場合に通知義務違反などに基づく免責を主張できるのか?」、「免責が認められない場合には保険金支払額の減額を主張することができるのか?」が問題になります。

2.判例の紹介

現時点では、火災保険契約における損害の不実申告(過大に被害額を申告すること等)については、最高裁の判例はまだなく、類似の事案の判例を参考にしてみました。

その類似の事案の判例では、保険者(保険会社)の免責が認められる要件として、保険契約者側が単に提出書類に虚偽記載があることを知っていたというだけでは不十分であり、間接事情を積み重ねたうえで、以下の2つの主観的意思があった事を要求しているものが多いです。

  1. 保険金を詐取する意図
  2. 過大な保険金を取得する意思

つまり、書類に間違いがあるだけでは免責要件を満たすのには不十分で、保険契約者側に保険金を過大に得る意図的な意思があるかどうかを判断する必要があるということです。

3.今回の事例に当てはめてみると

今回の事例と似ている事案についての判例では、約款の規定が「保険金支払の免責という極めて重大な効果を規定していること・・・(中略)、保険金を請求する者が、自らの所有に係る罹災物件につき、少しでも高値で見積もろうとすること自体は、一般的な人間の心情として全く理解できないわけではない事などに鑑みれば、同規定は限定的に解釈すべきであり、同条項が規定する【不実の表示をした】とは、単に提出書類に虚偽記載があり、被保険者がそのことを認識していたというだけでは不十分で、より積極的に申告者に保険金を詐取しようとする意図が存在するなど、保険契約における信義誠実の原則からして、許容されないような場合のものに限られる」とし、今回ご紹介した事例においては、焼損物の大半に不良返品票が貼付されていたが、全てが無価値とは即断できないこと、X社が、証拠をねつ造したような事情は認められないこと等の事情から、X社の申告の不実表示性を否定しています。

そのうえで、「罹災した商品が、全て無価値の不良品だったとまでは推認することはできず、X社に何らかの損害が発生したことは認められ、本件のように、火災により動産が焼失した場合の損害額の算定については、損害の性質上、その額を立証することが極めて困難であるといえるから、民事訴訟法248条に従い、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定するよりほかない」として、焼残商品の約8割に不良返品票が貼付されていた事実などから、X社の請求額の約2割相当額を損害額と認定しています。

まとめ

通知義務違反に基づく免責が認められるためには、今までの判例が要求するように、保険契約者の保険金を詐取する意図など、積極的な主観的意思を要求すべきだという司法の考え方があります。

もっとも、今回の事例のように、損害額を減額する客観的証拠が存在する場合には、保険会社の保険金支払額の減額が認められることも十分有り得ます。

なお、保険会社の免責の範囲について、「不実申告(過大な被害申告等)が保険対象物の一部だったとしても、契約の一体性が認められる限り、保険金全体の支払を拒絶できる」とした平成20年の仙台地裁の判例も存在しています。

結論を申し上げると、保険契約者は損害額を過大に申告したりすると、場合によっては保険会社が支払を拒否することがあるので、【過大申告や通知義務違反は厳禁だということです。

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